重さが2倍で摩擦も2倍?当たり前を疑う「摩擦力測定実験」のススメ
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
サイエンストレーナーの桑子研です。皆さんは、重たい荷物を床で引きずろうとして、「うっ、重い!」と踏ん張った経験はありませんか?物理の授業で習う「摩擦力」。教科書には f=μN というシンプルな公式が出てきます。「重さ(垂直抗力 N)に比例して、摩擦力(f)は大きくなる」という意味ですが、自然界の現象がこんなに単純な掛け算で表せるなんて、少し出来すぎていると思いませんか?

今日は、そんな「教科書の公式は本当なのか?」という疑問を、実際に手を動かして検証してみましょう。やってみると、予想以上に感動的な結果が待っていました。
教科書の「あの公式」を疑ってみる
実験に入る前に、少しだけ科学のお話を。摩擦力には、動き出す直前の踏ん張り力である「最大摩擦力」というものがあります。公式にある μ(ミュー)は「静止摩擦係数」と呼ばれ、面のザラザラ具合を表す数字です。「重さが2倍になれば、摩擦力もきっちり2倍になる」「面の材質が変われば、係数が変わる」これらが本当なのか、データで確かめてみましょう。
科学のレシピ:摩擦力を測る
用意するもの
木箱(約120g)、おもり小(約50g)、おもり大(約100g)、ばねばかり、やすり、木の板、つるつるのプラスチックシート
方法
① まずは準備です。ばねばかりを水平に持ったとき、針が「0N」を指すように調整します(0点調整)。これを忘れると正しい値が測れません。
【実験1:重さを変えてみる】
② 木箱の裏に「やすり」を貼り付け、やすりの面を下にして木の板の上に置きます。ばねばかりをひっかけて、ゆっくりと水平に引いていきます。
③ ここがポイントです! 木箱が「動き出す直前」のばねばかりの値を読み取ります。これが最大摩擦力です。
④ 木箱の中に「おもり小」を入れて重くし、同じように②〜③を行います。
⑤ さらに「おもり大」に入れ替えて、もっと重くして②〜③を行います。
【実験2:面の素材を変えてみる】
⑥ 今度は重さを変えず、床の素材を変えてみます。木の板の上に「プラスチックシート」を敷き、つるつるの状態にして同じ実験を行います。
結果と考察:世界は数式でできている?
実際に実験を行い、データをまとめたものがこちらです。まず実験1の結果を見てみましょう。おもりを乗せて全体の重さ(垂直抗力)を増やしていくと、摩擦力も大きくなっていますね。ここで注目してほしいのが、右端の「静止摩擦係数(摩擦力÷垂直抗力)」の値です。

多少の誤差はありますが、重さが変わっても係数はほぼ一定(約0.56前後)を示しています!「重さが変わっても、面のザラザラ具合(係数)は変わらない」ということが実証されました。次に、実験2(プラスチックシート)の結果です。

やすりの時と比べて、静止摩擦係数がガクンと下がりました。これは、面がつるつる滑りやすくなったことを数値が正直に表しています。
まとめ:当たり前を疑う面白さ
実際に手を動かしてみると、「本当に教科書の通りになった!」という感動と、「なぜ自然界はこんなに綺麗な数式に従うのだろう?」という不思議さが湧いてきます。実は摩擦力というのは、ミクロな視点で見ると原子同士の結合や表面の微細な凹凸が絡み合う複雑な現象です。まだ科学でも完全には解明されていない部分があるほど奥深い分野なのですが、マクロな視点ではあのようにシンプルな f=μN で表せてしまう。
ここに物理学の美しさがあります。準備も簡単で、15分もあればできる実験です。
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